Let’s Read! Learning Japanese through Science & Technology

社会言語学者のHymes(1972)は「文法は、規則をいかに使用するのかを理解しなければ、その学習は無意味である」と延べ、「いつ、だれに対して、どのように話すのかといった言語使用の適切さに関する能力」を「コミュニケーション能力」と名付けました。本コースは、この「コミュニケーション能力」を培うべく、中級以上の語学学習に照準をあて、日本における工学系留学生の研究活動や生活を支援するものとして開発されました。

オンライン講座開発

オンライン講座開発は、まず教科書の本文テキストづくりから始まりました。講座を担当する講師を中心に、非常勤の日本語教育を専門とする講師の先生方によって、エネルギーハーベストや、人型ロボットといったような具体的な工学系トピックについて、個々に本文を作成していただき、その後、オンラインや対面による長時間の話し合いを重ねながら、内容を練り上げていきました。『げんき』や『みんなの日本語』など既存のポピュラーな日本語教材に頼ることなく、工学系のリアルな研究現場につながる日本語を内容とし、独自教材を作成。日本語学習の各段階に相当する語彙と文法、様々な表現をどのモジュールでどう入れるかなど、議論と工夫を重ねてできあがったのが本文テキストです。

工学系トピックの元となったのは、工学系研究科の広報誌である『Ttime!』です。『Ttime!』は高校生・予備校生・大学生、様々な教育階梯の教員を対象にし、年2回発行している工学部の広報誌で、インタビューの実施や執筆は、工学部、大学院の学生アシスタントによって行われています。『Ttime!』には、東京大学の工学系研究科での研究内容や関連する分野の話題が掲載されており、「工学研究へのへの関心をより一層強く抱いてほしい」、という工学部教員と現役院生たちの願いがこもっています。

この講座の重要な1つの要素はテキスト動画です。受講者に持続して学んでもらえるよう、テキストの文章にある内容をイラスト化し、それをアニメーションとして映像化、そこにカラオケ方式でプロのナレーターが話す音声に沿って文字が表示されるようになっています。カラオケ方式で文字列が表示されると視覚的な印象と音声とが相まって、外国語としての日本語学習、特に事前学習で繰り返し見て練習する際の大きな助けになります。

開発中に課題となったこと

2020年のコロナウイルスの世界的な流行が始まった頃、この講座のもう1つの重要な要素である「工学系の研究者へのインタビュー」の撮影も行いました。多忙を極める先生方とのアポイントを取ること自体が大変困難で、また当時は直接お会いしてマイクを向けたり、同じ空間に複数人のスタッフがいて収録するとことが困難でした。そこでZoomを使ったオンラインでのインタビュー録画によって動画を作成するという手法に挑戦しました。このとき、MOOCユニットのスタッフは、聞き手、話し手、関連するスライド資料の挿入など収録時の手順の共有、短時間のインタビューで的確な話題を聞き取る難しさに直面しました。撮影環境も音声の環境もまちまちだったため、スタジオ撮影のような理想的な、音声の収録等が叶わなかった中で精一杯の映像制作を行った当時の社会状況がインタビュー映像から垣間見えるかもしれません。

また語学の講座とはいえ、工学的な話題をテーマとしている素材であることから、テキスト本文の内容自体が「工学的に正しいのか」という点についても、インタビューに協力してくださった先生に確認をする必要がありました。スライド資料に豊富に使われている図表等には版権の確認が必要で、お時間のない中で快くご確認くださった先生方にMOOCユニット一同、心より感謝しております。

受講者数も徐々に増え(現在、Part 1は、1万人以上!)、生活に身近なところから工学的なテーマまで幅広く話を展開していくテキストのわかりやすさなどから、熱心にPart 2まで学習を進めて修了証を獲得する受講者も全世界に広がっています。

【講座情報】
Part 1: https://www.coursera.org/learn/japanese-language-1
Part 2: https://www.coursera.org/learn/japanese-language-2

※国際交流基金著『話すことを教える』(2007年 ひつじ書房)より引用しました。

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